読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

学ランと心中

ホモをご飯にかけて食べると美味い。

にいちゃん/はらだ 感想

 

にいちゃん (Canna Comics)

にいちゃん (Canna Comics)

  • 作者: はらだ
  • 出版社/メーカー: プランタン出版
  • 発売日: 2017/04/28
  • メディア: コミック
 

 【内容紹介】

ふつうってなに
まともってなに
これはいけないこと…?

《BL界の鬼才・はらだが描く
衝撃の禁断愛、ついに解禁――》

かつて、近所のにいちゃんに手を出され、
現場を母親に見られてしまったゆい。
それを境に、いつも遊び相手に
なってくれていたにいちゃんは姿を消し、
親からは過保護なまでの監視を
受けるようになってしまった。
あれから時が経ち、
にいちゃんを忘れられないゆいは、
ある日もあてもなく街を徘徊し、
そして、ついに再会の日がくる――。
しかし、久しぶりに会ったにいちゃんは、
昔のような優しいにいちゃんでは  
なくなっていて……。                          amazonより引用

 

 

 

 

読んだ後天を仰ぎながら「とんでもないBLが産声を上げてしまったな…」と思って放置しまくっていた(すみません)このブログを開きました。

 

 

 

 

 

 

 

以下ネタバレ有

 

 

 

 

 

 

 

 

主人公のゆい(表紙の男の子)は幼いころに近所のにいちゃんに強姦されかけますが、ふたりの関係が親にバレてにいちゃんが姿を消した後もにいちゃんのことが忘れられません。トラウマになったとかそういうことではなく、ゆいはにいちゃんのことが大好きで、また会いたい、抱かれたいと思うんですね。

いや忘れろよそんな性犯罪者…と思いますがそんな読者の声は届かずゆいはにいちゃんの行方を捜しつづけ、ついに再会します。

昔優しかったにいちゃんは豹変し、性犯罪者からドクズ性犯罪者にレベルアップしていました。盗撮首絞めやりたい放題。挙句の果てにはセックス中に「おれはホモです」と電話で彼女に別れを告げさせる。

しかしたとえ何をされてもゆいはにいちゃんのことが好きです。彼女の協力もあってゆいは再び自分の元から離れたにいちゃんを待ち続け、過去と両親、すべてを捨てて戻ってきた彼を赦して受け入れました。

 

 

 

 

 

『ふつう』って本当に何なんでしょう

わたしの職場にはよく保険の勧誘が来るんですけど、この前生保レディからもらった生命保険のパンフレットには生涯に必要な保障の目安を知るためのモデルとして「20代で結婚、30代~40代で子育て、50代~60代で子供が就職&結婚、60代~定年退職して年金生活」という図が載っていました。大半の人が描く一般的な『ふつう』の人生がこれです。にいちゃんの親はにいちゃんにこのような『ふつう』の人生を歩んでほしかったし、ゆいの親はゆいに『ふつう』の人生を歩んでほしいと現在進行形で願っている。

にいちゃんの親の気持ちはよくわかるし、自分が親の立場になったらもっとよく理解できると思う。でもにいちゃんの親は自分たちの思う『ふつう』とにいちゃんの思う『ふつう』が全くの別物だったと知り、まともではないと決めつけて自分たちの思う『ふつう』に無理やり矯正しようとするんですね。体罰とまではいかなくとも、きっとゆいの親もゆいがにいちゃんと付き合っていると知ったら同じことをするんじゃないでしょうか。ゆいを叱責するかもしれないし、ゆいに絶縁を迫るかもしれないし、ゆいが病気だとすすり泣くかもしれない。自分の『ふつう』から逸脱したものはたとえ我が子であれ排除するかもしれない。

これって同性愛だけじゃなく他のことにも言えると思う。30歳も年が離れた相手と結婚するのは『ふつう』?5回目の再婚をするのは『ふつう』?ネットで出会った人と結婚するのは『ふつう』?他の人からみれば異常であっても当人からすれば『ふつう』なことって結構あって、『ふつう』という言葉は本当に業が深い。

『ふつう』という定義が不透明で曖昧な概念がこの世に存在しなければゆいもにいちゃんも両親ももう少し生きやすい人生だったのかもしれません。

キーパーソンとして出てくるゆいの彼女「まいこ」も前科があり消息不明の父親をもち母子家庭で育ちつつ、ゆいと同様女の子が好きだけど品行方正で彼氏もちの『ふつう』の女の子を模索する子でした。自分の『ふつう』は一般人からみれば異常だということを理解してうまく割り切って世間に溶け込んでいる。ゆいと似た者同士だけど、ゆいより達観しているしとても強い。スタンガン持ってるまいこのシーンis最高。

 

 

 

 

 

にいちゃんはすべてを捨てて、ゆいはにいちゃんのすべてを受け入れる。

ふたりは幸せなキスをして終了……かと思いきやこれだけで終わらせないのがはらださん。最後に非常にえげつない描き下ろしがありました。

にいちゃんは両親と絶縁した後、昔の優しいにいちゃんに戻ってゆいを愛しますが、たばこ(まあ許せる)と薬(アカンやつ)に依存し始めました。

対してにいちゃんのためならすべてを捨てる覚悟があると言ったゆいは、いまだににいちゃんとの関係を両親に言えずにいる。口先ではいざとなったらすべて切り捨てると言いながら、その実にいちゃんを得る代償としてすべてを失う覚悟ができていない。いくら両親を疎ましく思っていても「過去に自分をレイプした男と愛し合っている」なんて並大抵の覚悟では言えるわけがない。ゆいはここにきてやっと、以前にいちゃんが言った「誰からも祝福されないと愛って認められないんだ」という言葉の本当の意味と、にいちゃんがずっと抱えていた苦しみを理解したんじゃないでしょうか。

 

 

『にいちゃん』は出会いのきっかけこそ奇抜(性犯罪から始まる恋)ですが、結ばれるまでの過程にある「相手の重い過去や過ちを知る」「周囲の理解が得られずに悩む」「男同士で愛し合うことに葛藤を抱く」みたいなネタ自体は従来のBLでもごまんとあります。ただ従来のBLは大抵ふたりでそれらの問題を乗り越えます。苦しんで悩みながらも乗り越えてハッピーエンドで終わって「ふつうってなに まともってなに これはいけないこと…?」に何らかの答えを出します。

対して『にいちゃん』という作品はふたりとも『ふつう』にとらわれたまま乗り越えられずにいる。大学生になって親元から離れ「にいちゃんとの幸せな生活を送る自分」と「両親が理想としている大学生活を送る自分」どちらが間違っているのか分からなくなり今まで軽く捉えていた『ふつう』の人生について深く考えるようになったゆいは精神を病み、一見両親の『ふつう』から解放されたように見えたにいちゃんも今後の不安や過去に対する罪悪感に苛まれヤク漬けになってしまった。『ふつう』の呪いは恐ろしい。

描き下ろしで少し触れられていたけど、ふたりとは対照的にまいこだけはメンタルを保ち続けたまま自分の『ふつう』を貫いて好きな女の子と付き合っているようで何より。BLに出てくるクソ女以外の女の子は全員もれなく幸せになってほしい。

 

 

 

 

 

わたしははらださんのBL作品は全部読んできて、中でもダントツ好きなのが

やじるし (シトロンコミックス)に収録されている『ひきずる音』だったんですけど、『にいちゃん』も同じくらい好きかもしれないな…。Boy's Loveとしてあたたかな理想の世界を見せて読者を油断させた後に、Boy's Lifeとして一筋縄では解決しない厳しい現実問題を読者に突きつけてくるのがすごい。性犯罪者が準主役だしリバだしふたりの先行きも不安だしそれは確かに恋だったのかどうかもわからなくて地雷のひとも結構いるんじゃなかろうかと思うけどわたしは斬新で楽しめました。新たなBLの出生に乾杯。