学ランと心中

ホモをご飯にかけて食べると美味い。

花は咲くか/日高ショーコ 感想

ああ…ああ……ついにこの時が来てしまった…。

花は咲くか 完結………。

やっぱり好きな本、思い入れのある本ほど最終巻を読むのは寂しいです。この『花は咲くか』も大好きな作品で、桜井さんと蓉一の関係はどうなるんだろうとずっと気になって追いかけてきました。先日会社の送別会があったんですけど、ぶっちゃけ支社へ異動する上司から最後の言葉を聞いたときよりもこの5巻を読んだときの方が涙腺の緩みが激しかった。上司はバイバイしてもええけど桜井さんと蓉一とはさよならしたくないんじゃ~~~~;;

 

三度読み返して気持ちが落ち着いてきたので感想を書きます。

 

 

(以下1~5巻までのネタバレ有)

 

 

 

 

 

 

 

 最終話まで読んで最初に出てきた感想が「『花は咲くか』はみんなが現状から一歩前へ踏み出してそれぞれに花を咲かせる物語だった」でした。

 

 まずは蓉一。両親を幼い頃に亡くし、まるで生き写しのように、みんなから愛されていた父親と同じ人生を歩んできた蓉一が、桜井さんの存在によって少しずつ自分を出すようになりましたね。「父親」が好きな家を守るのではなく、「自分」が好きな家を守りたい。「父親」がやっていたから絵を描くのではなく、「自分」がやりたいから絵を描く。父親に埋もれていた自分を最初に掘り出してくれた言葉は一巻後半で桜井さんが言った「…花の絵描いてるんだな。いつも花。好きなんだな、絵が」あたりじゃないかなと思っています。きっと今までロクに友人付き合いもせず、父親の知り合い連中にはさんざん「父親に似て絵が上手い」とか「父親のタッチに似ている」とか言われてきたでしょうから、自分の絵を自分の絵として見てくれる人って新鮮だったんじゃないでしょうか。5巻では蓉一が本当にアレがしたいコレがしたいって自分からよく動いてるし、吉富さんや菖一さんに抗うしで人間味が出てたし、親目線で「あの蓉一が随分と大人になったな」と感慨深くなってしまった。

 ちなみに腐女子目線では「濡れ場での反応がまだまだ子どもでおぼこいな」と思っています。リバ好きの自分としては5巻で出てきた蓉一攻めの可能性に血湧き肉躍りかけたんですが、受けのまま終わってしまったので残念ながら血は湧きませんでしたし肉も躍りませんでした。でも幸せそうに抱かれていたのでよかった。5巻の濡れ場シーンなんてもう「尊い」以外の言葉が出てこなかった。あの仏教面だった蓉一が…あんなに可愛い顔して…涙と涎垂らしながら四つん這いになって喘いで…†神様ありがとう†……。桜井さんが以前買ったけど結局使わず終いだったジェルの伏線も見事に回収できましたね。それにしても改めて考えると蓉一にとって桜井さんが何もかも初めての相手なんだよなあ…。無自覚なまま生まれて初めて恋をしてタケさんに嫉妬したり桜井さんの家に行きたいと言い始めた蓉一も可愛いし、自覚を持った後の蓉一も可愛かった。回想シーンの蓉介も自由奔放で天然っぽかったけど、蓉一もかなりの天然だしそのへんはやっぱり親子だなって感じがする。

 

 次にずっと自分にしか興味が持てなかった桜井さん。育てようとした植物はすぐに枯れてしまうし、恋愛も長続きしない。物心ついたときから母親はおらず父親は仕事で忙しくて家になかなか帰ってこなかった幼少期からか、最初は何事にも期待せずにひとりぼっちで生きているようなところがありました。それでも父親に嫌われないために父と同じ道を歩んでいる点は、周囲から父親のトレースを求められて父と同じ絵描き人生を送っていた蓉一と少し似ているような気もする。それが蓉一と惹かれ合ってから、男同士であり且つ二回りほど年齢の違うふたりの今後についてどうしようか悩んで紆余曲折しながらも、「自分」のことを思うのと同じように「相手」のことを想えるようになった。諦めが早くて空気を読み過ぎてしまう寂しい大人から、相手を本気で求めて支えたり支えられたりしてあげられる優しい大人になった。蓉一を成長させたようでいて、桜井さんもまた蓉一のおかげで成長していたんですね。

 濡れ場での桜井さんはそれなりに年を重ねているだけあって割と余裕が見受けられましたが、3巻で蓉一に「桜井さんに会うまでは絵を描くことにしか興味を持てなかった。どうして下宿に戻ってくれないんですか」って言われてから無言でマンションに戻って、玄関のドアを閉めた途端買い物袋が落ちるのも構わずに蓉一にキスしたときの桜井さんには余裕が完全に消えてて滾りました。ふたりの絡みの中であの玄関チューのコマがいちばん興奮したし、何なら額に飾って部屋に置きたいくらい好き。

 自分の周りにいる上司を見てても思うけど、桜井さんが勤めている広告代理店だけじゃなくて、40歳前後ってものすごく仕事盛りの時期なんですよ。好きなことを仕事にしている人ならなおさら大事な時だと思う。最終話で仕事は多忙だし転勤で遠距離になってしまったけどふたりが仲良くやれていたのは、この人じゃないと駄目なんだという強い気持ちの表れですよね。

 

 そして藤本。彼は本当はいい奴なだけに何とも損な役回りになっちゃいましたね。水川の血筋でもないし、下宿の見学に来た母親を見る限り家族関係も良好で、美大に通うイマドキのかっこいい青年。しかしうわべだけの友人付き合いも多かったし、絵の才能もイマイチ、モデルもやってるけど何か足りない満たされない日々を送っていた。それが蓉一によって徐々に魅力的な毎日に変わっていくんですけど、そのときには既に蓉一は桜井さんのことが好きだったんですよね。4巻の「よく考えたらさ、俺が好きになったのって、お前が桜井さんを見てるときの顔なんだよな」「俺はバカだからさ、桜井さんを好きなお前を好きになっちゃったんだよな」という藤本の台詞は胸に突き刺さる。当て馬キャラですらただの邪魔な男で終わらせず、読者に感情移入させてしまう日高さんはすごい。最後はようやくやりたいことを見つけたようだし、あとは良い相手を見つけて幸せになって欲しい。私はBLを読むたびに心から登場人物たちの幸せを願う腐女子特有の癖があるのですが、まあ彼らにしてみれば「いやお前他人の幸せ願ってる場合じゃないだろ。はよ彼氏作れや」って感じだろうな。

 

 菖太は進学を機に水川邸から離れたけど話し合って決めた結果だし、ずっと忌み嫌っていた父親の菖一と、家族と、多少なりとも向き合えることが出来たので良かった。菖太は見た目こそ幼いのに中身男前だし大人びてるよなあ。菖一おじさんは不器用な人だけど結構苦労人なんだよね。いつも少し離れたところから皆を見ていて、父親の代わりとして見られる蓉一が抱える孤独も愛人の子として見られる菖太が抱える孤独も両方知っていてそばにいたタケさんがやっと自分のことに目を向けられるようになったのも嬉しい。

 

 吉富さんと柏木さんは蓉介のことが(恋愛感情ではなく)大好きだったんだなって思う。蓉一には自分の道を進んで欲しいと思っていても、やっぱり心のどこかでは蓉一を蓉介と重ねていたところがあったのかもしれない。「さすが桜井!俺たちにできない事を平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!!」とまではいきませんが、自分たちには出来なかった、蓉一を蓉一として見てあげてさまざまな感情を引き出していた桜井さんのことを一目置いているところはありましたね。今まで甘やかし放題にしていた面もあるけど、両親の亡き後親代わりとして支えていた彼らの存在は大きいと思う。吉富さんは園子さんとお幸せに。

 

 

 

  両親の病気や死、将来のことなど脇役も含めて重い部分がありましたが、あくまで主軸は桜井さんと蓉一の恋愛でしたし、シリアスの合間に絶妙なさじ加減でコミカルな台詞が入っていたりして、暗い気分になることなく読み終わりました。まだまだすべての問題が解決したわけではありませんが、綺麗に終わってくれてホッとした。それにしても5巻特装版の小冊子は桜井さんの眼鏡is最高、この一言に尽きる。描き下ろし以外も読んだことがないものばかりだったので個人的にはとてもお得感がありました。

 

 最後にタイトルの『花は咲くか』の「花」ですが、単に桜井さんと蓉一がふたりで撒いた種のことを指しているなら5巻の最後の文章通り「花は咲かなかった」ですね。しかし主要人物の多くが花に関連した名前になっているようですし(桜井さんは桜、蓉一は芙蓉、柏木さんは柏、藤本は藤、菖一と菖太は菖蒲、竹生は竹、吉富さんは下の名前が桔平だから桔梗かな?)、少しずつ色を重ねてそれがいつの間にか花になっている蓉一の絵のように、みんなが自分の意志で今まで置かれていたところから少しずつ前進した結果の集合体を花と呼ぶなら、表題の問いに対する答えは「花は咲いた」になるのかもしれない。物語は終わってしまったけど、彼らがいつまでも枯れずに咲き誇っていて欲しいなと思います。